ある夜、少女は祈っていました。
静かに、祈っていました。
そこは、小さな教会でした。
木造の、小さな教会でした。
ところどころに、花が飾ってありました。
結婚式をしたら、華やかで素敵そうな教会でした。
少女は、顔の前で手を組み、祈りをささげていました。
少女は、左手にだけ、茶色の手袋をしているようでした。
時折、長くてきれいな金髪が揺れました。
髪が揺れる度に、目から涙が落ちました。
涙が落ちる度に、姿勢を整え、祈り続けていました。
そこに、一人の男が入ってきました。
男と言っても、背が低く、一見女性のようにも見えます。
白くてきれいな、丈の長い修道義を着ていました。
修道義には、薔薇の刺繍がきれいに施されています。
「三都さん、ここにいましたか。」
男は言いました。
三都と呼ばれた少女は、やっと顔をあげ、振り向きました。
涙は拭いてありました。
「…。」
男は黙って、三都と呼んだ少女を見ていました。
「…お別れ、だから…神父、様。」
三都は、小さな声で言いました。
神父様と呼ばれたその男は、いつも語っているかのように、話し始めました。
「神は、どこでも三都さんを見守って下さるのです。
あなたがここに来られなくなる、ただそれだけのことです。」
三都の目から、また一つ、涙が落ちました。
「…不安なのですね?」
神父様は尋ねました。
三都は、目を静かに閉じて、肯定しました。
「…みんな…わかるの、不思議…。神父、様。」
「それなりの時間を一緒に過ごしたのですから。なんとなくですよ。」
神父様は、少し笑って、言いました。
「三都さんは、学校に行くのです。
もしあなたが戦火に身を投じることになっても、これは変わりません。
あなたが決めたのですから。」
三都は、驚いた顔をして、神父様を見上げました。
「戦いを、その目で見て、そこから人々を救う方法を見つけなさい。
私は、ここで神に祈り、子どもたちを救いながら、この戦争の終わりを模索していました。
私にできるのは、そこまでなのです。
あなたは、あなたの見た世界を、神に、人々に伝えていく。
そう、話してくれたことは、どこにいても私は忘れずに過ごしましょう。」
三都は、じっと、聴いていました。
「軍人になってしまえば、ここに戻ることはできません。
ただ、ここでは知り得なかった世界や人々に会えるでしょうから。
きっと、生きられます。生きなさい。」
神父様は、少しゆっくり、はっきりと、三都に語りかけました。
そして、近くの蝋燭を消しながら、少し微笑んで、三都に言いました。
「今夜はもう寝る時間です。」
次の日、三都は、朝早く教会を出ました。
他のこどもたちはまだ眠っています。
荷物とカメラをしっかりと持ち、歩き出しました。
その後ろ姿を、神父様は、静かに、
三都の姿が見えなくなるまで、見送りました。
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